養老渓谷温泉街の歴史|大正時代にはじまり葛藤温泉、ドライブイン、現在の旅館街へ -養老渓谷⑸

養老渓谷温泉の歴史と現在は廃業している老舗旅館の記録です。千葉県にお住いの方であれば一度は訪れたことはあるであろう観光地、養老渓谷も興味深い歴史が眠っています。
養老渓谷温泉の歴史
千葉県市原市と夷隅郡大多喜町にかかる温泉郷「養老渓谷温泉」。
最寄り駅は、小湊鐵道「養老渓谷駅」。小湊鐵道が開通する以前は交通機関としての役割を果たしていた養老川に沿ってハイキングコースとして整備されている。
『角川日本地名大辞典』によると、
昭和初期まで養老川を筏や荷足舟が下がって五井浦まで薪炭・米・酒などを運び、帰り舟で塩や雑貨などを運んできた、とのこと。
温泉の始まりは、大正元年(1912)に個人宅敷地より天然ガスが、大正3年(1915)に井戸より鉱泉が湧出。この鉱泉を天然ガスで加熱したのが養老渓谷温泉の始まりと伝えられている。現在は10軒ほどの旅館が点在し、県内では最も有名な温泉地として知られている場所。
しかし、交通が不便だったため昭和初期の利用者は少なく、第二次世界大戦後、養老館が開業して昭和25年養老渓谷地域一帯が注目されはじめ、小湊鐵道株式会社もその発足に尽力した結果、養老渓谷温泉郷となった。
ヨウ素を含む茶褐色の湯、黒湯が特徴的。旅館については後程。
養老渓谷案内図、古い看板が残されているのが有難い。

本日は養老渓谷温泉郷に一泊。
翌日、この看板から気になった南側にある永島郷土資料館へ。
昔は葛藤温泉だった
岐阜県の「養老温泉」と区別するため、「養老渓谷温泉」が正式名称とのことだが、かつては養老渓谷がある地名の葛藤より「葛藤温泉」と呼ばれていたことも、残存する看板から読み取れる。

葛藤温泉は聞きなれないが、昭和30年代頃の観光案内を見ると葛藤温泉が一般的だった様子。養老渓谷駅自体も、昭和29年以前は地名の朝生原駅だった。
色々な資料を見ると、養老渓谷が観光地として整備されたのは昭和30年代以降徐々にという流れで、大正期~戦後までは本当に房総の奥地の秘境だった様子。
「日本温泉協会 編『温泉』26(7),日本温泉協会,1958-07」の当時、宣伝もしておらず、これから発展しようなら土産物を考えるべきだとの記述もあるほど。「あすこの温泉葛藤温泉っていう名で呼ぶらしいけど、養老温泉の方がいいと思います。憶えいいもの。」と指摘されているので養老渓谷に統一された説もありそう。
その後、1963年発行の「『同盟』(63),全日本労働総同盟,1963-10. 」では、葛藤温泉が旧名に。
「千葉県山岳連盟房総の山編集委員会 編『房総の山』,千秋社,1977.6. 」では、「以前は葛藤温泉と呼ばれ、ひなびた湯治場であったが最近は鉄筋建ての立派なホテルも含めて数軒の旅館が渓谷沿いに並んでいる。」とのことで変遷を感じる。
昭和30~40年代に発行された養老渓谷の絵葉書には駅近くのバンガローと弘文洞跡など、観光と療養の両面をもつ温泉地として発展を遂げ、現在に至る。2023年には台風13号による旅館の浸水被害から復旧が進んでいます。営業再開後は是非、皆さん養老渓谷へ。
養老渓谷ドライブイン
養老渓谷については私も幼少期から何度も訪れていますが、大人になってから見ると旅館や廃墟の面も味わい深い地だなと気づきました。以前の訪問記事→「温泉郷」と謳われた養老渓谷の現在。養老渓谷温泉街 -養老渓谷⑶
改めて今回も県道81号沿いを探索。
既に廃止された養老渓谷ドライブイン。

「廃墟探索地図」によると、1970年頃の開業と推測。
やはり養老渓谷全盛期の年代!
ホテル岩風呂・養老館など
そして県道沿いに温泉旅館が点々と。駅からは徒歩25分くらいなので車で訪れる方が多いかな。

廃業しているホテル岩風呂、旧館と新館が現在も残っている。


『全国著名旅館大鑑』1964年発行の紹介でも養老渓谷唯一岩風呂が載っているくらい有名だった旅館。廃墟マニアが探索している動画がアップされているけど…現役の頃に温泉楽しみたかったです。
50人はいけそうなずいぶん広い内湯と20人くらい入れそうな露天風呂があります。ちなみに左手の浴場は20人位かな。内湯は岩風呂風のタイル張り、露天風呂は周りは庭園造りで浴槽は岩風呂となっています。立つと観音橋が望めますが、入ると板張りで見えません。内湯・露天風呂とも黒湯で満たされております。
ちなみに岩風呂は、今回宿泊する川の家の本店らしく図らずも関連旅館に泊まることが出来たのは幸い。

食堂は閉業。かつてはお土産も販売していたみたい。



今回はさらに奥、向山トンネルを抜けて養老川沿いに建つ旅館「川の家」へ。

川の家から西側、大多喜町小田代の八坂神社を参拝してチェックインへ。

(訪問日:2022年10月)
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