「亀田屋旅館・古川館」丸山町古川の伊南房州通往還沿い、つげ義春ゆかりの旅館 -南三原⑵
南三原駅から歩いて、丸山川沿いの南房総市古川へ。伊南房州通往還沿いには商店街の街並みが残っており、さらに調べると、つげ義春の『貧困旅行記』にも登場する旅館が残っていた。
丸山川沿いの「山本園」
千葉県南房総市古川379。前回、内房線「南三原駅」から歩いて丸山川沿いの病院建築を探しに…結局現存せず、古川の街道沿いを通って駅へ戻ることに。
大雨の後だったのか、川の流れが荒々しく驚いた。
橋を渡ると、商店街が広がっていた。左手には野口商店。
角にある茶葉販売店「山本園」は営業中。この街角、昭和で時が止まったみたいだ…
向かいの建物は草木で覆われている。廃業してから随分時間が経っているのだろう。
並びにあったスーパー「丸ヤ」、「フクヤストアー」なども閉店している。
さらに奥へ進むと、お城みたいな外観の建物が気になった。
白亜のお城…これは一体?
2014年時点で既に廃業している。元居酒屋さんとかかな?
隣にはビューティサロンみづほの駐車場。
伊南房州通往還沿いの商店街を歩く
引き続き伊南房州通往還沿い。2014年に営業していた靴屋さんは閉業している。
さらに西側は商店というより、民家が並んでいるが、人通りも無く静かだ。
茶葉販売店「山本園」の向かいにあったクリーニング店「みつみね本店」も閉業。この辺りで営業しているのは、山本園のみ…?
伊南房州通往還沿いということで、古くから賑わっていた場所だと思うが、その歴史を随所に感じる街並み。誰も記録に残していないのかな…
鮮魚店「岡徳」。既に閉業しているが、木製の立派な看板が飾られていた。できればお話を伺いたいくらいだったが、周辺は人の気配が無さすぎる…
果たして昔はどのようなお店が並んでいたのだろうか。今住んでいる方々はどこまで買い物に行く必要があるのだろう、商店街が無くなって不便になったのではないかと思う。
亀田屋旅館・古川館
伊南房州通往還沿いを歩いて駅へ戻る途中…運命的な出会いがあった。
亀田屋旅館?!街道沿いに旅館が残っている!!
入り口は暗いし、グーグルマップにも情報が無いので現在は営業していない雰囲気だが…
以前は横に「旅館亀田屋」の看板も建っていたようだ。現在は撤去されている。街道沿いの旅館として古くから営業されていたに違いない。泊まってみたかったな~
しかも、さらに向かい側には旅館「古川館」が残っていた。
こちらも調べても情報が無く、閉業している様子…古川という地域名だから「古川館」なのかな。
現在は売り物件。この建物の裏手は川なので、もしかしたら眺めも良いかもしれない。
そして、この旅館の歴史を知る事になったのがこの日の帰りの電車…
つげ義春『貧困旅行記』と古川
房総から帰宅する電車の中で、私はつげ義春の『貧困旅行記』を読んでいた。読んだことがある方も多いのでは?
何気なくあるページを読んでいたら、聞き覚えるのある旅館が登場した。
あれ?と思って調べてみると、先ほど見た「亀の屋旅館」だった。218ページ、「旅籠の思い出」、「亀田屋の女」昭和41年8月につげ義春自身が旅をした内容が綴られている。
日が暮れて千倉のあたりで道に迷った折、とある。そこが当時の丸山町古川で、二軒旅籠屋が並んでおり、「亀田屋旅館」に宿泊したそうだ。その様子は、令和の今と全く変わらない。
軒先に立ちガラス戸を開け放った中を覗くと、鉤の手の土間があり、土間の隅にスノコが敷かれ、そこに下駄箱を据え、壁には番傘が二、三本かけてあった。外から丸見えの帳場には、目の高さの格子で囲った机があり、煙管の雁首打ちつける音が聴こえてきそうな長火鉢が置かれ、黒光りした柱時計、神棚、招き猫も揃い、宿の前の道は竹箒の目も残り、水が打ってあった。まるで時代劇でも見る趣で、私は長い道中の末そこにたどり着いたような心持にされた。
営業中の亀田屋旅館の描写…圧倒的な文章力に引き付けられる。
また、当時、昭和41年の街並みの様子も。
そこは町ではなく、周囲を田畑に囲まれ、そこだけ人家がかたまってあったが、舗装もされていないひと筋の道を挟む家並みは、宿屋もどの家も平屋で小ぢんまりとし、裏長屋の露地の佇まいを見るようで、こんな所に二軒も宿屋があるのが不思議に思えた。たいがいの家は雨戸を閉めひっそりとして、宿屋と寿司屋の明りだけが道を照らしていた。
昔は舗装されていない道だったのですね。町ではない、という感覚分かる気がします。ここだけポツンと集落がある感じ。昔の宿場町ってこういう雰囲気だったのでしょうか。
何も知らずに歩いていたら、つげ義春と関わりのある旅館と遭遇するとは…とても嬉しい旅路だった。
もし旅館についてご存知の方がいたら教えてください!
(訪問日:2021年9月)
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