香取神宮の茶屋「寒香亭」。明治25年創業、歴史と絵葉書と-香取神宮⑵

香取神宮本殿の奥へ進むと、昭和な雰囲気の茶店「寒香亭」がある。参道沿いの飲食店とは違い、昔から変わらない佇まいの寒香亭。
戦前の絵葉書とともに、茶店周辺から見る歴史を味わってください。
香取神宮「寒香亭」
千葉県香取市香取1572。香取神宮本殿の奥へ進む。本当にこんなところにお店があるのか…と不安になりながら進むと、ひっそりと営業中のお店が一軒あった。

観光客はほぼいない。私たち家族だけだった。
令和の現在も昔のままの状態を残してくださっていて嬉しい。

寒香亭(かんこうてい)は、創業明治25年。120年以上の歴史がある茶店だ。時代劇にも出てきそうなくらい雰囲気がある…
”見晴らしのよい休憩所”と書いてある通り、崖沿いに建っている。

”香取みやげ一式”販売とのこと。こういう売店も今はあまり見かけないなあ…

まずは、建物内の様子と頂いたランチの様子をご紹介します。その後に詳しく歴史やもう一軒存在した茶屋、周辺の歴史について!今回の記事も長くなりそうです…

昔ながらの茶店の様子
建物内は手前が土間で、奥に座敷が広がっている。

真夏、窓が全開でエアコンはない。しかし自然の風が吹き抜けて、心地よい。

風鈴、虫の声…これこそが夏の風物詩。最近は夏でもエアコンをつけて窓を閉め切っている家庭も多いのではないだろうか。夏は暑いのが当たり前。だけど自然の風や音を聞いていると、暑さも和らぐ。

そして初めて訪れたのに田舎のおばあちゃんの家に帰省したような、どこか懐かしい気分になる。心が安らぐな…

また、レトロな冷蔵庫も発見!黄色い森永マミーの冷蔵庫だ。

”濃厚牛乳のエース!森永A牛乳”

こちらは、コカ・コーラの冷蔵庫。アイソトニック飲料と書かれたアクエリアスのレトロな広告も時代を感じる品物。

建物も100年近く経っており、歴史的価値があると思うが綺麗に活用されている様子。


絶品!ラーメンとお団子を頂く
お昼の時間だったのでラーメンを頂くことに。

ラーメンは550円。さっぱりしている醤油スープに細麺で女性でも食べやすい。魚系の出汁なのかな~個人的にはとても好きな味!

名物の御団子も。一人前、7粒で450円。少しお高めだな…と思いつつ家族で一皿を頼んだが…

あんこときな粉の御団子。口の中でとろける…!わらび餅のような柔らかさで凄く美味しかった…
これだったらラーメンを食べた後に一人前の御団子をペロッと食べれます笑
お土産に買いたかったなと思うくらい絶品…

最近テレビのロケがあったらしく、温和なご主人がとても喜んでいた。「宣伝してくれると嬉しい」とのことだったので、ぜひ気になった方は足を運んでみて下さい~
ちなみにお手洗いは、半地下へ階段を下った先にありました。六角形の穴…

戦前の絵葉書
店内には、寒香亭に関する戦前の絵葉書や資料が展示されている。これらは大正時代の絵葉書だそうだ。
「官幣大社 香取神宮櫻馬場」

右手に映っているのが、昔の寒香亭。屋根が茅葺屋根?建替えられる前の平屋の建物だが、窓から景色を一望できるのは今と同じ。
また、下の絵葉書を見ると手前にもお店がある様子。

ちなみに、お店の横にあった灯篭は、大正12年の関東大震災で崩壊してしまったそうだ…
昭和5年、松井天山によって描かれた「千葉県佐原町鳥瞰図」の左上にも香取神宮が描かれており、寒香亭の姿も…

本殿の真裏で林の中にポツンとある…
こちらは、「官幣大社香取神宮境内全図」。香取神宮のみが描かれた鳥瞰図でとてもわかりやすい。

寒香亭の部分を拡大してみると、二階建ての建物になっている!二階も茶店として使用されていたようで、外を眺める人が描かれていた。先ほどの絵葉書よりは後の姿なのだろうか?

また、左手には他に二軒のお店と間には階段を上り下りする人。奥には利根川が見え、潮来、鹿嶋まで見渡せたことが分かる。
店主は現在5代目で、後継ぎの方もいらっしゃるようなので嬉しい。これからもこのお店が続くんですね!
また、奥にある絹の肖像画は珍しく江戸時代のものだという。店内には沢山貴重なものがあるので見飽きないお店だ。

2階の見晴らし台
お店を出てから、2階の展望台へ登ってみることに。

”どなたも御遠慮なくお昇り下さい”とあるので昇らないわけにはいかない…

2階から見る景色。木々が覆っていて、かつ天気があまり良くなかったので何も見えず…

昭和15年頃から山を開拓しはじめ、昔の風情ある面影はあまり残っていないらしい。桜、梅、椿、花々が咲き誇る姿を見てみたいものだ…また春に訪れたい。

ちなみに、店内にあった見晴らしの良い時代の絵葉書。大正時代のものだろう。

こちらは、私が所有している絵葉書。「神苑見晴台」

現在はひっそりとしている茶店側だが、かつて利根川の方の津宮から船を降りて参拝客は訪れていた。そのため、この寒香亭の隣にある階段からはお大勢の参拝客が訪れ、寒香亭で一休みをしたのだろう。

階段の石柱は当時のままかもしれない。現在は木々が生い茂って、観光客は寄り付かない道。今度は津宮側からここまで参道を歩いてみたいと思う。
もう一軒の茶店「香取亭」
そして、寒香亭以外にもお店があったという話を伺った。店内に展示されている写真には、寒香亭から左手、桜馬場にたくさんのお店が写っている。(寒香亭は右、写っていない)

近年まで、階段の横にあったお店は「香取亭」。
『佐原の歴史散歩』によると、香取亭の創業は大正12年(1923)。明治25年(1892)の寒香亭に比べると40年ほど後にできたお店ということになる。
私が所有している戦前の絵葉書には、両方の茶店の様子が写っている。

拡大すると、香取亭の脇に大きな看板が見える。
「いたこ鹿島方面 定期貸切 乗船券売場 香取亭」

利根川を渡る船の券の販売も香取亭で行っていたようだ。なかなか興味深い。
2008年に書かれたブログにも二軒のお店があったと書いてあるので、10年ほど前まで営業していたのだろうか…→香取神宮 ~ 茶店「寒香亭」
香取神宮の所有地であるため、閉店後は更地にして返さなければならないとのこと。寒香亭と同じような二階に展望台がある茶店だったようだ。
下総国式内社の碑
寒香亭の隣には、下総国式内社の碑。

文久元年(1861)に設立された碑。江戸時代に清宮秀堅が調査したものだそうだ。

桜の馬場
また、茶店の隣にの広場は「桜の馬場」と呼ばれている。
安永六年(1777)に額賀重賢が土地を買い求め、馬場の周囲の囲いを設けたその中に松桜を植えたことにはじまり、その後広くなっていたったという。
また、大きな手水鉢は、元禄13年(1700)造営の時に譜請奉行から寄進されたもの。

灯篭は、元禄4年(1691)のもので、境内にある多数の灯篭の中でも最古に近い歴史あるものだそうだ。また、さらに奥にある鹿苑の鹿は、鹿嶋・春日の両社や金華山からのもの。
香取神宮境内の奥にある茶屋とその周辺の歴史、いかがだったでしょうか。当時の絵葉書も集めてみると、この茶屋がいかに多くの参拝客に愛されてきた場所だったのかを感じます。
(訪問日:2021年8月)
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