「旧生浜町役場庁舎」千葉市に残る昭和初期築の美しき近代建築 -浜野⑵
千葉市に残る美しき近代建築「旧生浜町役場庁舎」を見学しました。
外観が水色に新たに塗装され、見る人を惹きつける建物となっています。無料で一般公開されているのでぜひ見学してみてください!
浜野駅近くの近代建築
千葉県千葉市中央区浜野町1290−3。内房線「浜野駅」から北へ、徒歩15分ほど。塩浜橋、踏切の手前に今回の建物があります。
建物の西側、塩浜橋の道は「房総往還」。古くから栄えていた街道沿いに建つ。
駐車場は4台ほど。意外と地元の方でもこの建物の存在を知らない方が多いみたいなので、ぜひ訪れてみてほしいです~
ガイドさんには、千葉駅から小湊バスに乗るのも便利とのこと。今回私は周辺も探索したかったので歩いたが、そんなに遠く感じなかったので周辺の神社なども見て回ると良いと思う。
旧生浜町役場庁舎の歴史
旧生浜町役場庁舎は、昭和7年(1932)竣工。
千葉市指定有形文化財に登録。千葉市のホームページには次のように紹介されている。
この建物は、かつての生浜町(※昭和30年、千葉市に編入)の役場庁舎として、昭和7年に建築されました。千葉市内では数少ない昭和初期の洋風建築物のひとつで、建築技術や意匠には東京などの中心都市の建物に比べて地方色が強くみられるなど、近代建築史の変遷を考える上で貴重であることから、千葉市指定有形文化財(建造物)に指定されています。
市内では数少ない木造二階建て洋風建築物。国登録有形文化財に登録されるレベルの価値の高い建物だと思う。
建物の赤い屋根は、フランス瓦。
玄関ポーチのバルコニーは明治末期から大正期に建てられた郡役所建築によくみられる特徴とのこと。
現在、一般公開は、火木土9時~16時。無料で見学できるのが素晴らしい。
生実町町内会が作成した「旧生浜町役場庁舎」のPDFに沿革や部屋配置図が詳しくまとめられている。
昭和30年、千葉市と合併する以前、この辺りは生浜町だった。昭和3年に生浜町ができ、町制施行を機に新しい町役場をとのことで、この建物がつくられたという。
当時の新聞には「戸数714戸、人口3,873人を数える町で、町内には日蓮宗の本行寺をはじめ、足利氏の小弓御所、森川氏の北生実陣屋跡、それに南生実の八剱神社など多くの名所・旧跡があり、産業として米・麦・甘藷などの農業のほか、鯉・アサリなどの水養殖業が盛んに行われていた」と紹介されている。
昭和30年に千葉市と合併した後は、生浜支所、生浜地区市民センターとして平成3年度まで使用。その後は、教育委員会が移管を受けて保存、整備し現在に至る。解体されずに保存されていることに感銘を受ける。
以前は塗装が取れて白い外観だったが、外壁に残っていた塗装を調べ、かつての水色の姿に復元されたという。青空に良く映える素敵な色だ。
館内の資料を見ると、2018年頃に外装塗装工事が行われたという。80年前の姿を蘇らせる取り組みが実行されることが凄い…
一階には玄関ホール、事務室、町長室、小使室等が設けられ、二階には議会室、議員控室が配置されている。
左側の木造平屋の建物が、小使室。後で建物内も見学する。
確かに、以前見学した千葉市緑区の「椎名村役場」にも洋風建築と横に小さな和風建築が設けられていた。→「旧椎名村役場」昭和初期建造、千葉市緑区役所椎名連絡所の建物が見たくて
昭和初期の役場建築、他の事例もこれから見て行きたい。
玄関ホール
まず入り口を入ったところにある玄関ホール。
全面ガラスでなので照明をつけなくても充分明るい。
農業資料などが展示されている。
小窓が並ぶつくりから、かつて役場として多くの人が利用していた姿が蘇るようだ。
入って左側は現在ガイドさんが常駐している。白とピンクを基調とした淡い内装にうっとり。
1階・事務室を見学
玄関を入って右手にある、1階の事務室。
格子天井、全面ガラス窓によって自然の光が館内を照らしている。
そうか、今みたいに明るい照明があるのが当たり前ではなかった時代、自然光を取り込むことで建物内を明るく見せていたんだな…今は電気に頼り過ぎではないかと自省した。
入って左手にあるのは電話室。今の公衆電話ボックスのようなものだろう。
電話交換手。ハンドルを回して電話交換手に番号を告げて相手に電話をつなげてもらう仕組み。
スマートフォンでいつでもどこでも電話できる今は考えられないけど、80年ほど前は電話するのも一苦労だったのですね…あまり触れる機会もないので、記念に電話をもって記念撮影もしてみました。
事務室には金庫が二つ。手前と一番奥に設置されている。
一番奥まった場所にある金庫にはどのようなものが保管されていたのだろう?
また、机の上に展示されていた備品。これはハンコを並べる棚かな?
下には2段のケースがあり、役場時代に使われていたものだと思う。
緑や赤色の椅子もふかふかで座り心地が良かった。
昭和35~36年に撮影された生浜町のビデオを見たりしてゆっくりと過ごすことができる。
事務室内に展示されているのは、漁業資料展。
周辺の地名、塩田、浜野、生浜などからも連想するように埋め立て前は漁業、特に海苔の養殖が盛んだったそうだ。
現在の浜野に海苔の養殖、ましてや漁業のイメージが全くなかったので、こうして現物を展示されていることで産業の発展の裏に、漁業権を放棄せざるを得なかった人々が存在したことを実感する。
また、昭和54年に作成された「ふるさとすごろく」がとても興味深い。
様々なパターンがあり、イラストもリアリティがあって勉強になる。こういう風に郷土愛を深める取り組みがあるのは羨ましい。
漁業に関する内容から、石碑や神社仏閣、お祭りなど日常では目立たない歴史まで紹介されている!私も千葉県各地でこういうふるさとすごろく作ってみたいな~と密かに思った。
1階、宿直室
今度は玄関入って左にある宿直室へ。
押し入れがある宿直室。現在は写真など建物に関する資料が展示されている。
屋根裏から発見された木製の棟札。昭和7年と描かれている。
こちらは、屋根に使われていたフランス瓦。
電器具関係の資料など、普段は間近で見ることができないものが展示されていて面白い。
宿直室の奥にお手洗いがあるが、現在の仕様に改装されている。
宿直室の西側にあるのが小使室。
土間、炊事場などが見られる。先ほどまでの洋風な町役場の雰囲気とは打って変わった日本家屋。
ガラス戸に残る昭和ガラス。光にゆらゆらと照らされて幻想的だった。
正式には、型板ガラスというらしく、このデザインは旭硝子株式会社の「このは(木葉)」。見る角度によって異なる輝きがあって個人的に一番すき。
生活用具展が行われており、昔使われていた食器や家具などが展示されている。
2階、議会室へ
玄関正面にある階段をのぼって2階へ。
2階は議会室へ繋がっている。昔ながらの木製階段の音も良い~
広々とした議会室が目の前に。磨かれた茶色の格子天井が美しい…
議長、議員の席も再現されている。
現在はイベントなどで使用されているらしい。それにしてもどこを見ても綺麗に管理されていて保存状態が素晴らしかった。
当時の議会は、町長が議長を務め、定員12名の議員によって現在の市議会と同様に、地域の人々の生活に関する討議が行われていたという。
議会の資料なども展示されている。
左手にある写真は歴代の町長の写真でしょうか?
議会室から見えるバルコニー。
2階、議員控室
議会室の隣には、議員控室。
一歩足を踏み入れると畳の空間。洋風建築であっても、休む場所は畳の方が落ち着くのかもしれません…
議員控室から見た庁舎の裏側。
また、文化財防火デーというポスターがあった。千葉市は文化財を本当に大切にしているんですね…!
一人一人の意識によってこういう建物が現在も保存されている。
木造建築を維持することは費用面でも大変なことである。”いつか見よう”と思っていると、そのいつかは訪れないかもしれない。今、見に行こう…!
ガイドの方に「好きだからたくさん撮影できるのね」と言われたが、これだけ保存状態も良く残っている場所は県内では珍しいので撮影がとても捗ってしまい、閉館時間まで滞在してしまった。
また、少しでも建物の雰囲気が伝わると良いなと思い、1分ほどの短い動画にまとめたので良かったらご覧ください。
定期的に伺いたい、素晴らしき近代建築でした。
(訪問日:2021年8月)
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